第32章 世代交代の道標
「強制はしない。野薔薇が東京に行く方法は他にもあるし、何なら”誘拐して!”って頼まれたら、野薔薇を誘拐しちゃうかもね」
「何でそこまでするの?」
「それほど、術師はオススメできないんだよ。私だって…」
「そうじゃなくて」
Qはぽけーっとして、首を傾げた。
「そうじゃなくて…どうして私に固執するの」
「あはは!別に野薔薇に固執してる訳じゃないよ…うん、本当に」
Qは命を狙われているらしい。
理由は聞いても教えてくれなかった。
というか、どんな種類でも、Qの昔話は聞いても教えてくれない。
だから、Qの過去の話を聞いたのは、これが初めてだった。
「野薔薇、この村嫌いでしょ」
「え…」
「隠さなくていいよ。告げ口もしない」
「……だって、キモいし」
村の人はみんな頭がおかしい。
おかしいと言うと語弊があるけれど、そんな人の声は自分の声より大きく聞こえてしまう。
そしてその大きな声は、悪気が無くても人の領域に土足で足を踏み入れて、荒らしてしまう。
それなら、私はここじゃないどこかに行って、自分の声をしっかりと聞ける人間として生きていきたい。
「でも、私は子供だからこの村から出れない。だから、東京に行きたい」
「そっか」
Qは私の頭を雑に撫でた。
髪の毛の準ずる方向など無視して。
「私の…知り合いも、生まれた時から”そこに”縛られてた。生きる場所を変えたくても、簡単に変えられなかった。だから、程度は違えど同じように苦しんでる子がいたら、助けたくなっちゃうんだ」
だから、野薔薇に執着してるわけじゃない。
それに、私は手助けをするだけで、行動するのは野薔薇だよ。
Qはそう言って、私の頭を再度ぐちゃぐちゃにした。
「それで、どうする?大事な判断だし、今決める必要は全くない。けど、私もいつ消えるか分からんし……まぁ、私に習う必要は無いんだけど」
術師になるかなんて、今すぐに決められない。
けど、もし術師として生きていくなら、その手解きはQに習いたい。
「術師になるかはまだ決めない。でも、教えて」
「お試し期間ってこと?」
「術師の世界とそうでない世界。比べないと分かんないから」
「…生意気」
「うっさいな」