第32章 世代交代の道標
「あのキモイやつ、何なの?」
「…呪霊って聞いたことある?」
「ない」
Qは懐中電灯を拾い、私に持たせた。
そして、その場に腰を下ろし、私を見上げた。
「さっきのキモイやつが呪霊と呼ばれるもの。呪いと言う時もあるね。そして、私はそれを殺す…いや、正しくは祓う仕事をしてる。してた、の方が適切か」
「…へぇ」
「飲み込みが早いのか、思考停止してるのかは知らないけど、とりあえず野薔薇にもこの才能がある。あんたのばぁちゃんと一緒でね」
「なんでおばぁちゃんのこと知ってんの」
「ははっ。この村付近に滞在するにあたって、術師関連のことは調べてある。殺されたくないからね」
「術師?」
「私のように呪いを祓う能力を持った人のこと」
「…」
「他に質問は?」
質問はあるけれど、上手く言葉にできない。
とりあえずここは首を縦に振っておこう。
「それでね、前に野薔薇を東京に連れてくって約束しただろ?」
「うん。いつ連れてってくれるの?」
「まぁまぁ、焦らさんな。野薔薇を誘拐すれば今にでも可能なんだけど…。それは避けたいね。ってことで、野薔薇には術師になってもらおうと思ってる」
どうやら、術師専用の高校が東京と京都にあるらしく、Qもそこに通っていたらしい。
それが2年と半年ほど前のこと。
Qの大凡の年齢が分かった。
そして、そこに通うことが決まれば、伴って上京できる。
しかも、在学中にもお金を稼げるらしいから、金銭面も気にする必要は無い。
「まぁ、他にも方法は沢山あるんだけど。単に私が野薔薇を術師に育てたいだけ」
「何で?」
「術師って仕事量の割に人数がめっちゃ少ないの。だから、若い子を術師に仕向けたいわけ。そしたら……うん、そんな訳よ」
寂しそうな顔をしたQは、すぐに花咲くように笑って術師のリスクを話してきた。
常に死が隣にあり、仲間の死もそこら中に転がっている。
楽しい事も沢山あるけど、辛いことの方が多い。