第32章 世代交代の道標
次の日、私たちはいつものようにQの元へ行こうとしたが、付けられそうな勢いだったのでやめた。
その次の日も、そのまた次の日も。
私たちは1週間、Qに会えなかった。
「…決めた」
「………それ、マジ?」
大人しいふみが、夜中家を抜け出し会いに行くと言った。
余程会いたいのだろう。
けれど、馬鹿正直なふみはお父さんにそれを言ってしまい、あっけなく失敗に終わる。
けれど、ふみがダメなら私が行く。
おもちゃのトランシーバーと懐中電灯を持って、私は深夜の街並みを走った。
夜の森は怖かった。
人捜しどころじゃない。
「Qーー!でーてーこーい!」
自分の足音ですら、恐怖対象。
お墓の肝試しより怖かった。
「ひぃ!……風か」
ここまで来て、Qはここにいないのかもしれないと思い始めた。
すると、右の木の裏から、カマキリを巨大化させたような、生き物…?
「…ぁ?」
なんなんだろう。
この生物は。
黄色に緑と赤を少しづつ混ぜて、雑に塗りたくったような感じ。
のし、のし、と。
近づいてくる。
「伏せて」
サッと前に飛び込んできた人。
その人が手を横に振ると、絵の具が飛び散るように何かが飛んで。
けれど、それはすぐに消えて。
懐中電灯を落としてしまった。
「野薔薇…」
暗くてよく分からなかったけれど、あのカマキリはどこにもいなくなっていた。
「あれは何?」
「…怖くないの?」
「全然」
「初めて見た?」
「ううん。だから、あんまり怖くなかった」
カマキリよりも、夜の森の方が怖い。
そうは言っても、カマキリも怖かった。
Qが来てホッとしたということは、そういうことなのだろう。