第32章 世代交代の道標
「なんでQは人目を避けるの?」
「それは……っと」
目の前からおばさん軍団が来た。
Qは小さく”最悪だなぁ”と呟いた。
私達にはその意味が分からなかった。
「野薔薇ちゃん、ふみちゃん…」
「「こんにちはー」」
私達はQを背にして元気よく挨拶をした。
ポッキーはもちろん背中に隠した。
足を早めることもできるけど、それではおばさん達からは逃げられない。
「あなたも…こんにちは」
「こんにちは。今日も肌寒いですね」
「ええ。貴方がこちらにいらしてからどのくらいになりますか」
「来たのは冬の初めですから…、ざっと4ヶ月くらいですかね。山の向こうに暮らしてた時も合わせたら2年くらいです」
「まぁまぁ長いのね。分かってると思うけど、こっちの春はまだ先よ〜。油断しないようにね」
「はい、お気遣い感謝します」
おばさんが軽くQの肩を叩く。
Qは柔らかい笑みを向ける。
本当のことは知らないけれど、この人たちが沙織ちゃん一家をよく思っていなかったという噂を、最近になって知った。
だから、Qのこともよく思っていないのかもしれないと、私達は勘ぐっていた。
けれど、おばさん達はQに愛想がいい。
嫌味も言わないし、妙な勘ぐりもしない。
Qが嫌がる理由が見当たらないのだ。
だから、私達はQが人目を避ける理由が分からない。
「では」
「ええ。野薔薇ちゃん、ふみちゃん。危ないことはしちゃダメよ。暗くなる前に家に帰りなさいね」
「「はーい」」
笑顔を崩さずおばさん達を追い越した。
しばらく歩いてから顔を戻すと、頬が少し痛かった。
ふみも頬を摩っている。
「くそっ…」
そして、Qはイライラしていた。
「お前ら、今日はもう帰れ」
「何でよ」
「ジュースとかはあげるから」
そう言って、Qは私達用の購入品を器用に取り出し、私達に持たせた。
「Q…?」
「いいか。私のことを聞かれても、あまり話さないでほしい」
「そんなこと言ったって、私達もQのことなんも知らない」
「…それもそうか」
Qは私達の頭をなでると、私達を置いて行ってしまった。
何が起こったのか分からない私たちは、Qの背中をじっと見ては首を傾げた。