第32章 世代交代の道標
けれど、嫌な奴だけれど、悪い人ではない。
私たちの知らないような遊びを教えてくれるし、お菓子もくれる。
だから、私達は学校帰りに、ランドセルを背負ったままQの元へ自ら出向くようになった。
春休みに入っても、その関係は続いた。
「Qってどこに住んでるの?」
「ここら辺」
「森の中?」
「そう」
「じゃあ、私の家来る?」
「ははっ、ありがとう。でも、ふみの家に迷惑かけちゃうから。でも、気持ちは嬉しい」
ふみはQのことが大好きだった。
理由は知らない。
私からしたら、沙織ちゃんの方が100倍いい人だと思う。
「なー。お腹空いたー」
「野薔薇…、太るよ」
「ふみ、行こ」
「あーもー。私、あんましあそこ行きたくないんだからね」
財布の中を確認するQを置いて、私達はスーパーに向かった。
夕方になるとおばさん達で賑わってしまうため、それよりも早い時間帯に行くという気遣いをみせる私達。
「んーと。今日はカレーだから…豚肉と…」
Qは数日分の食料を買うつもりらしい。
どんどんと商品が放り込まれていくカートに、私達は食べたいお菓子を入れていく。
基本的に、Qは何でも買ってくれる。
けれど、残すと死ぬほど怒られるため、きちんと量は考えている。
「飲み物」
「ファ○タ!」
「オレンジ!」
「はいよ」
Qはファ○タのグレープと、オレンジジュースをカゴに入れた。
そして、いつも通りコーヒー牛乳のパックジュースも。
聞いたことも、言われたこともないが、それがQの好物であることは知っている。
というか、それを飲んでいるところしか見たことがない。
Qは会計を済まし、手早く袋詰めを行った。
両手に抱えられたビニール袋からポッキーを取り出して、スーパーに出てから封を開けた。
「ふみ」
「ありがとう」
「ん」
「…ん。美味しい」
Qの開いた口にポッキーを突っ込んだ。
器用に口に吸い込まれていく。
Qは普通の人だ。
スーパーで買い物もするし、ポッキーを美味しそうに食べる。
でも、Qが訳アリ人物であることは変え難い事実だ。
それは分かっているのだが、それが不思議で仕方ない。