第4章 祓う者と殺す者
「言っとくけど、変なことしたら殺すから」
「よせ。これでも紳士なんだ」
この部屋に他人を入れるのは初めてだった。
五条を招いたことはあったが、いつもドア前の会話で終わってしまうから。
「さっきのも千夏の術式?」
「そう」
私は公には呪言師という枠組みに入るが、実はちょっと違う。
それに、私は音に呪力をのせるだけでなく、もっと幅広く、柔軟に言葉に呪いを込めることができる。
だから、文字を書く時に呪力を込めれば、御札のような紙を作れたり、その紙を人にぶつければ書かれた内容が伝わったり。
今回利用したのは後者の方だ。
「えっと、どこまで話したっけ」
「俺が千夏の考えを理解したところで、千夏が泣き出した」
「泣いてないし!振りに決まってんでしょーが」
ここだけは否定させてもらう。
泣き虫千夏ちゃんはもういないのだから。
「言葉の呪い」
「…そう。言葉の呪い。傑なら、私が何を言いたいか分かってるでしょ?」
「一応、説明して」
「分かったよ」
言葉の呪いとかいう物騒な名前でも、大したことはない。
ただ、どんな見た目であれ、どんな区分の生物だとしても、意思疎通可能だったならば、同じ言語を使用していたら、罪悪感なしに殺めることはできなくなる。
「傑も呪霊に話しかけられたら、もう今みたいに殺す…いや、祓えなくなるよ」
「呪霊に話しかけられた事があるのか?」
私達が会話出来る呪霊は、高い階級の呪霊に限る。
あまり階級が高くなくても言語を発することが出来る呪霊もいるけれど、大抵は鳴き声のように叫んでいるだけ。
それに、呪霊からこちらに話しかけるなんてレア中のレア。
傑が驚くのは当然だ。
「無視、か」
「無視したわけじゃない。ちょっと考えてただけ」
「何を」
「…傑を五条と同じくらい信用できるかどうか」
私は紙パックのコーヒー牛乳を一気飲みした。
半分くらい飲んだところで、気持ち悪くなったけれど、最後の1滴まで胃に流し込んだ。