第4章 祓う者と殺す者
「傑」
ごめん、と小さな声で後付けた。
「もしかして酔った?」
「違う…。ごめん」
白い制服が滲んで見える。
みんなは黒なのに、私だけ白い制服。
私が特別である象徴だった。
靴を履いたまま狭い座席で蹲る。
泣くふりをして、胸ポケットから紙とペンを取り出し、速記する。
『後で私の部屋に来て』と。
「って、おい!泣きそうな女の子がいたら慰めるのがフツーでしょうが!」
そして、傑にビンタする振りをして紙で傑の頬を撫でる。
こうやって術式を使うのは初めてだけれど、ちゃんと使えたようだ。
傑が撫でられた頬に触れて、クスッと笑っていたことが何よりの証拠だった。
「スミマセンでした」
「これができるかどうかで、モテ度に100万倍の差ができるから。覚えとけ」
後は高専に着くまで目をつぶっていればいい。
時間が過ぎるのを待てばいい。
「千夏」
「ん?」
横目で傑の悪戯な顔を見た。
「私が知っている人の中で、千夏以上に繊細で優しい人はいないよ」
「そう?それは良かった」
「後は言葉使いだ」
「それはもう手遅れ」
「私にはわざとやってるようにしか見えないけどね」
「さぁな。大昔のことは忘れたよ」
初対面の印象は全く変わっていない。
むしろ定着しつつある。
けれど、そこにひとつ付け加えられた。
『信用できる可能性がある人』
隣で機嫌良さそうに目をつぶる傑、
こんなにも下心溢れた状態で、人の心を読みたくなったのは、生まれて初めてだった。