第32章 世代交代の道標
「あのお姉さん、Qって言うんだ」
「あだ名だけどね」
「それで…。野薔薇ちゃん、行くの?」
「行くったって。どこに行けばいいか分からないから」
「そ、そだね」
昨日貰った飴を2人で舐めながら下校。
また明日と言われたものの、待ち合わせなどはしていない。
そんなでかい村ではないから、あっちが私達を見つけるのは簡単だろう。
でも、それは他の場所と比べてというだけで…。
「あ、いたいた」
「「!?!?」」
右でも左でも、前でも後ろでもない。
上から聞こえてくる声に顔を向けると、そこにはQがいた。
電柱から出ている金具に手を置いて、ぶら下がっていたのだ。
こんな奇抜な登場を誰が予想しただろうか。
「よっ…と」
音を立てず着地したQは、私達の目線に体を合わせた。
「昨日ぶり」
「…」
「こっちの子は一昨日ぶりかな。お名前は?」
「…ふみ」
「ふみ。いい名前だ」
なんだか、Qが男っぽい。
昨日にも増して。
だからといって、どうということはない。
「今日は3人で遊ぼう。約束通り、ね」
こんな怪しい人について行くなんて不安しかなかったが、そのスリルが好きだった。
後でふみは言っていた。
顔をキラキラさせた私を見て、逃げることに諦めを感じたらしい。
「今日は…木登りしようか」
「「木登り?」」
迷子になるから、と普段は立ち入りを禁止されている森に足を踏み入れて、ドキドキワクワクしていたのに。
木登り。
「えー、ダル」
「わ、私、運動苦手だから…」
「大丈夫」
根拠の無い”大丈夫”という言葉だけで、私達はQがとんでもない人であることを察した。
時間が経つにつれて、あの時の私達が正しかったことが証明されていく。
Qは性格が悪い。
私達を抱き抱えて木の上に乗せては、ビビるふみを見てげらげらと笑った。
私はそのまま飛び降りる度胸を持ち合わせていたので、Qにはつまらなそうにされた。
彼女の性格がどれだけ酷いものか。
私達は初日にして痛いほど理解した。