第32章 世代交代の道標
「お姉さん、誰なの」
「田辺ゴン太」
「そうじゃなくて」
「いい名前貰っちゃった。けど、呼びにくいよね。ゴン太だと男っぽくて似合わないし…。田辺だとインテリキャラっぽいよね…」
飴を貰った手前、ここで逃げるのは申し訳ない。
「じゃあ、ハテナさんは?お姉さんの存在自体が不思議だから」
「もっとカッコイイのがいいな」
なら、自分で決めろ。
そう思いながらも、考えてあげる。
「ハテナ…不思議…クエスチョン…」
「あっ、Qとかどう?」
「Q?Qか…Q…。うん、いいね。かっこいい」
Qはそう言って笑った。
笑顔は人を油断させると聞いたことがあるけど、それは確かなようだ。
「素敵な名前を2つも!どうもありがとう」
「…飴貰ったから」
「それでも、ありがとう」
「…どういたしまして」
どうしてだろう。
この人の笑顔が悲しそうに見える。
気のせいなのだろうか。
「Qはどこから来たの?」
「東京」
東京と言えば、沙織ちゃん。
沙織ちゃんがいるところだ。
「野薔薇ちゃんは…」
「野薔薇でいい」
「じゃあ、野薔薇は東京に行きたいの?」
「うん。沙織ちゃんがいるから」
「…へぇ」
Qはジロジロと私を見た。
気持ち悪いほどに。
「…千春。ちょっとだけ」
Qが小さく何かを言った。
私は聞き取れなかったが、その代わりにQから嫌な気配を感じた。
鳥肌が立った。
「…OK」
けれど、それは直ぐに無くなった。
不思議な体験だった。
「うん。私が野薔薇を東京に連れてってあげる」
「…ほんと?」
この村から出るのは難しい。
なぜなら私の家は金持ちじゃないから。
でも、金があっても難しいかもしれない。
「その代わり、野薔薇には強くなってもらう」
「…はぁ?」
「ふはっ。その感じいいね。懐かしい。私も仮面を張らないとね」
何から何まで。
言ってることが不明。
「じゃあ、明日から一緒に遊ぼうな」
「ちょっと…!」
「1人が嫌だったら、お友達も一緒にどうぞ」
そう言うと、Qは一瞬にして姿を消した。
Qは幽霊なのか。
でも、手は温かかった。
そんな混乱を抱えたまま、私は家路に着いた。