第32章 世代交代の道標
もう会うことはないし、会っても声をかける情けはないと思っていた。
沙織ちゃんがいなくなった今、私達の放課後はほとんどふみの家でゲームをするに限っていたため、確率も低い。
けれど、そんな低い確率なのに引き当ててしまった。
「あー、確かそんな豪邸があったわね」
「毎日あの山を通ってるの?」
お菓子を買いにスーパーにやってくると、あの人がおばさん達に囲まれていた。
よそ者に対する関心意欲は花丸だが、態度だけはバツ印。
可哀想に、と思いながら会計を済ませ、横を通り過ぎた。
けれど、声をかけられないなんて、ありもしないことだった。
「あら、野薔薇ちゃん。こんにちは」
「…こんにちは」
「この人のこと知ってるの?」
あの人が呑気に手を振ってくるから、関係を疑われる。
ここで、私が知らないと言えば、おばさん達はこの人を怪しむだろう。
「ちょっとだけ」
だから、少し助けてあげた。
「田辺ゴン太さん、この後予定あるんでしょ。早く行かないと」
「…はは。そうだね、野薔薇ちゃん」
ポカンとするおばさん達のあいだをくぐって、田辺ゴン太さんの手を引っ張ってスーパーを出た。
「田辺ゴン太って何?」
「私のど○森のキャラ名」
「ぷっ…。私、一応女なんだけど」
「私も女だよ」
いつまで手を引けばいいか分からなかったので、次の電柱までは引っ張ろうと決めた。
「でも、助かった。ありがとう」
そう言って、この人は袋の中から棒付きキャンディーを取りだし、くれた。
コーラ味だった。
「あ、もう1人の子にもあげないと、不公平かな」
そう言って、もう1本くれた。
キャラメル味だった。