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【呪術廻戦】infinity

第32章 世代交代の道標


*****


折角東京に来たというのに、全く観光ができていない。

何のために小遣いを貯めていたのか。



「悠仁ー、野薔薇ー。二人は会うの初めてじゃない?」

「伊地知です。補助監督を…」

「はーい。こっちが虎杖くん、こっちが釘崎さんでーす」

「…」



そして、私はつくづく環境に恵まれない。

五条先生は適当だし、衛生観念おかしい奴、自分かっこいいと思ってる奴。

そして、アイツもいる。



「んあー!悟!」

「どうし…」

「って、一年坊主じゃん!」

「…ギクッ」



全てが子供っぽい彼女は、私の上京を手伝ってくれた恩人…一応だけど。



「ずっと会いたかったのに。絶対逃げてたでしょ」

「…いえ。そんなこと…」

「ばーか!色々教えてやった恩を仇で返すなっつーの」



数秒前に顔を合わせたばかりだけれど、すでに伊地知さんが気の毒で仕方ない。



「お前がそんなんだから、伊地知さんは逃げてたんだろ」

「別に逃げてた…」

「はぁ?私がどんなんだって?」

「うるさい、恩着せがましい、めんどい奴」



どうしてこの人が特級呪術師なのか。

小学生の私達に遊ばれていたような人なのに。

私の挑発に容易く乗ってくるやつなのに。



「五条先生。どうしてこんな人を選んだんですか」

「えー?だって、可愛いじゃん」



五条先生がアイツの頬にキスした。



「や、やめてよ…!」

「はは。それに、反応が面白いんだよ」



全く。

この人たちは似ているから、うまくいっているのだろう。



『私はあの時、死ぬべきだったんだ。そうすれば、あんな幸せを知ることはなかった』

『じゃあ、死ねばいいじゃん』

『私はそれでいて臆病なんだ。死ぬのが怖いんだ』

『…めんどくせー』

『だろ?でも、こんな私を好む馬鹿もいたんだよ』



きっと、その馬鹿が五条先生なのだろう。

そして、あの頃よりおしとやかになったコイツ。

本当に幸せそうな顔をしている。

コイツが帰りたかった場所はここなのだろう。



『やっほ。君達は何年生?』



昔の自分にアドバイスできるなら、絶対にこう言ってやる。

コイツに話しかけられたら、真っ先に逃げろ、と。

そんなことができたら、不幸なことに、私はきっとここにはいないだろう。
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