第32章 世代交代の道標
野薔薇の頭を数回叩いて、緩まった腕から頭を取り出す。
ズボンを数回払って立ち上がると、野薔薇の表情は非常に固かった。
「それで?嘘って何?」
「お前が特級だって…聞いた」
「…へえ」
「4級だって言ってたじゃん!」
「そんなこと言ってない。否定しなかっただけ」
「~~!あんたはいつも…!」
私を指さし、あーだこーだ喚く野薔薇。
あの頃のような甲高い声でないことが、唯一の救いだ。
初めて話した時は、その甲高い声と泣き声が合わさっていて、しばらく耳がキーンとしていた。
「ずっと手加減してたってことかよ」
「そうだね。大人ですから」
「…大人ぶんじゃねーよ」
「ほんと可愛くないな、野薔薇”は”」
昔から可愛くないと思っていたが、今は比べ物にならないくらい可愛くない。
生意気さも比較対象外。
「さっき、五条先生達と話した。あんた、色々やってんな」
「あはは。人間、楽しく生きないと」
野薔薇には、私に関する情報はほとんど公開していなかった。
歳と、呪術師であること。
教えていたのは、そのくらいだ。
「…ありがとう」
「何が?」
「と、とにかく、ありがとうって言ってんの!」
「おぅ…」
重量感のあるものを投げつけられ、慌てて胸でキャッチした。
何かと思って見ると、私の大好きな飲み物だった。
「私がここにいるのもあんたのおかげだから…。お礼は言ったからな!」
「…はは」
「何笑って…」
「かっわいぃ~」
「…やっぱり、嫌いだ~~!!無理、無理!!」
野薔薇にコーヒー牛乳が好きだと言ったことはないし…。
私がそれを飲んでいたことを覚えていてくれたのだろうか。
照れて走って行ってしまった野薔薇をみて、彼女の成長を感じた。
あれが、毎日のように私の髪の毛を引っ張っていた子供だとは、全く思えない。