第31章 大人になれない大人(仮)
何とか京都にたどり着いた私達は(私は)、当初の目的を忘れ普通に観光していた。
呪術高専が東京と京都にしかないことより、今まで数え切れないほど京都には訪れているが、何と言っても甘味処の多い京都には飽きることがない。
「うひょー!やっぱりここ最高!八ツ橋めっちゃ試食できるんだよ〜」
「はいはい。あと10秒で選んで」
甘いものが苦手な硝子は、この甘ったるい匂いに悪酔いするとか。
何度も何度も急かされるが、いつも飲みに連れていかれる代わりに、少々付き合ってもらおう。
「あ、ちょっと電話」
「ん〜、ほほひひふ〜(ここにいる〜)」
ニッキにするか、生にするか。
味はどうしようか。
毎回のように悩んでは、結局ワンパターンの購入履歴。
「千夏」
「ふぁ…」
「行くよ」
「えっ!ま、まだ買って…」
「歌姫先輩が暴走しかけてる、あんたのせいで」
「あ、そういえば……って、ちょっと電話!」
歌姫先輩のことを忘れかけていた私の携帯が鳴る。
画面を見て顔が明るくなる私を見て、硝子を溜息をつき手を払った。
「も、もしもし」
「付き合いたてか」
硝子のツッコミを無視して、電話先に耳を傾けた。
『あれ、今出かけてた?』
「うん。今京都だよ。さっきすごく綺麗な写真撮れたから送るね」
『ありがとー。いつ頃帰ってくる?』
「明日の夜かな」
移動中に少し値の張る宿を予約した。
普段の節約は、こういう時にいかされるのだ。
『ちょいちょい。千夏、絶対明日のこと忘れてるでしょ』
「明日?私、フリーだけど」
『釘崎野薔薇さんのお迎えは、明日でしょーが』
釘崎野薔薇というのは、呪術高専に入学する1年で。
私が昔お世話になり、お世話した子で…。
「野薔薇が来るのは来週の今日じゃない?」
『いーや、明日だよ』
この前来た手紙には、確実に来週の日付が書かれていて。
その記憶に対する自信は確かなもので…。
「あんにゃろぉ……」
瞬時に、騙されたと気づいた。
あの、超絶わがまま娘に。