第31章 大人になれない大人(仮)
「…てか、硝子って美人だよね」
「そう?」
「不健康そうな顔しながら…。ずるいなぁ、ほんと」
ハンドルを握る硝子は、ただのワイルドさを兼ね備えた美人。
普段のサイコパスっぷりは、微塵も感じられない。
「あんた達、結婚は?」
「まだ、かな」
「何故」
私達が結婚できない理由は腐るほどある。
悟の身分のこと、私が謎に呪術界に嫌われていること…。
数えることが馬鹿らしい。
でも、思いつく一番の理由は、私の気持ちの変化。
「んー。何か。最近、結婚ってそんなに必要かなって思ってきた」
「前は結婚願望強かったのに」
「だって、一緒に暮らして、遠慮するほど愛されてさ。今だって十分幸せで。わざわざ結婚する必要ある?」
「ははっ。千夏の発言とは思えないわー」
硝子は前髪を耳にかけ直し、口を開けて笑った。
硝子に限らず、数ヶ月前の自分でも、今の自分がらしくないと思っているだろう。
「まぁ、結婚が全てじゃないよな。五条Jrだって、結婚しないでもできるわけで…」
「はは。五条Jrって…」
「全く考えないわけじゃないでしょ?」
「それはそう…。ミニ悟が家にいるってだけで泣けるけど…」
「また何か問題があるってわけね」
特別子供が欲しいとは思わないけど、いたら楽しいんだろうな、とは考える。
子育てだって、私が呪術師として控えて暮らせば、不可能ではない。
けれど、私達が子供を授かる…というより、悟自身が子供を持つことに消極的。
五条家が悟1人で成り立っているため、後継者を設けることは必要不可欠であるが…。
直接教えてくれたことは無いが、自分の子供には呪術師になって欲しくないのだろう。
このジレンマを抱えているから、私達はそういう話をしないのだと思う。
悟は自分の中で答えが出ないと、決して話そうとしないから。
「あんた達は本当に面倒な恋愛してるよ。そうだな…七海あたりで手を打ったら?」
「ばーか」
「ははっ!」
車のスピードが上がった。
いくら高速だからといっても、メーターの上がり方が異常だ。
…無事に京都に着くことは出来るのだろうか。