第31章 大人になれない大人(仮)
「おい、いたd…」
「馴れ初めかぁ。どこから話そうかね〜」
「なっ…!」
五条先生…!
何故、話に乗り気なんだ。
隣にいる彼女の顔を見てみろ。
アイマスクで見えてないのか、おい。
「五条先生は八乙女さんのどこが好きなの?」
「それ、永遠に言えるけど、付き合う気ある?」
「そのうち上位10個」
「ムズいなぁ…」
「あ、八乙女さんも五条先生の好きなところ10個考えてみてよ」
「余裕」
そう言って、八乙女さんは指を折りながらスラスラと答えていく。
八乙女さんが提供する話題は、いつも7割方は五条先生のことなので、簡単に羅列できるのだろう。
先程まで尖っていた目の奥も、五条先生の話になると柔らかくなる。
…と、どうしてここまで八乙女さんに気を使っているのか。
俺が気遣う理由がひとつもないことに気づき、自分に呆れ戸惑う。
「めっちゃスラスラでてくるじゃん!」
「私は悟オタクなの。他にもね…」
「…あはは!それ、ウケる!」
「ちょっと。僕の評判落とさないでくれる?」
そして、この状況が読書に最適であることに気づいた。
虎杖は前の2人に任せ、会話の内容的にこっちに飛び火が来ることは無い。
そう思って、読書を再開したのだが、東京に着くと虎杖が八乙女さんにビビっていた。
空港に併設されている洋菓子店前で揉め始めた2人を指さして、虎杖はコソコソと話し始めた。
「八乙女さん、怖すぎ…」
「何かあったのか?」
「アレを何も無かったで済ます!?」
記憶を遡ると、アレに心当たりがあるような…。
八乙女さんの意表を突く行動に慣れてしまった俺からしたら、八乙女さんらしい普通の行動だったので、全く頭に残っていなかった。