第31章 大人になれない大人(仮)
*****
「…なーなー、あの2人って付き合ってんの?」
前に座る2人を指さして、虎杖が囁く。
「そう」
「…マジか、ヤベーなっ!」
何がやばいのか全く分からないが、とりあえず俺の読書を邪魔しないで欲しい。
「…ぶっちゃけさ、八乙女さんってどんな人?五条先生の人柄は何となく掴んだんだけどさ〜…」
会って1日も立っていない高校生に、全貌を掴まれる男。
確かに、五条先生は驚くほど単純な性格で、最強を誇る強さだから、説明なくとも9割は理解出来る。
その反対に位置するのが、八乙女さん。
俺も半年ほどの付き合いになるが、未だに謎多き人だ。
感情表現が豊かで、人が呆れるほどバカなことをやらかす天然な人だが、その仮面の奥で何を考えているか全く分からない。
「…一つだけ言えるのは」
「…ゴクリ」
「…めっちゃ怖い」
「えっ…!」
虎杖が自分で自分の口を塞いだ。
口をパクパクさせて、具体例を求められた。
具体例と言っても沢山ありすぎて、どれから話していいか分からない。
それに、八乙女さんの怖さは数種類にも渡り、サイコパスチックな面、気性の荒さ、そしてアホすぎる1面など…。
「…待たなくても直ぐに理解すると思う」
「…まじかー。顔は大人しそうなのにな」
俺も初めて会った時…つまり、八乙女さんが田辺ゴン太を名乗っていた時は、虎杖と同じように思った。
けれど、今ではその大人しそうな顔が、悪魔のようにみえる。
「なーなー、五条先生」
「何だい?」「あ、バカ…!」
身を乗り出した虎杖のフードを引っ張ったが、虎杖の体幹がしっかりしていてビクともしない。
「先生と八乙女さんって付き合ってんでしょ?」
「そーだよ」
搭乗前に八乙女さんとした会話を思い出す。
『悟とゆっくり話すラストチャンスだから邪魔しないで』
「馴れ初め聞かせてよ。俺、そーゆーの好きなんだよね」
「私達の馴れ初めなんか聞いても面白くないよ〜」
八乙女さんは笑っているが、目が笑っていない。
このままだと、この人は暴走する。
何故か確信に満ちていた。