第30章 疲れとストレス
どれくらい時間が経ったかは分からない。
頬に違和感を感じた。
「…起こしちゃった?」
仕事の格好をした悟が座っていた。
私の頬を撫でながら…。
「…気持ちいい」
「冷たい?」
「ひんやりしてる」
「そっか」
自分の温かい手と頬で、悟のひんやりした手を挟んだ。
「あんなに熱あったのに気づかないなんて、”馬鹿は風邪ひかない”が証明されてんじゃん」
「本当に何ともなかったんだよ」
「無理すんなって」
「…ふふ」
「なに笑ってんの。トイレでぶっ倒れてるの見て、どれだけ焦ったか知らないでしょ」
「いや…。好きだなって思って」
トイレでぶっ倒れていたという事実も、悟がそんな私を見つけたという事実も知らないけれど。
その時の焦った顔を見てみたかったという気持ちがある。
「…ごめんな」
「…私もごめん。でも、一つだけ許せないことがある」
「なに?」
「なんで返信してくれなかったの」
「いや、あれは、普通に見てなかった!僕、忙しい時通知オフにするから…」
「…へぇ」
「信じてって。このとーり!」
「じゃあ、ほっぺにキスしてくれたら許す」
「…その顔、可愛すぎ」
「ん~、口はダメ~。うつっちゃうか…ら」
「(‘∀‘)」
「…ダメって言ったのに」
喧嘩というものは、始まり方は壮絶だけれど、終わり方は意外とあっさりしている。
「…あの、そろそろ入っていいっすか」
「め、恵!?」
「あ~、お待たせ」
「…そういうのは誰もいないところでやってくださいよ」
軽蔑の目を向けてくる恵は、ペットボトル飲料をベットに投げ捨てていると、制服を脱ぎTシャツに着替え直した。
「…千夏側だけ強制しても、意味無いのか」
「どういうこと?」
「んーん。こっちの話」
悟がニコッと笑って、私の頭を撫でる。
何だか寒気がした。