第30章 疲れとストレス
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目が覚めると、真っ先に真っ白な天井が目に入った。
そして、左腕に違和感を感じて、そっと顔を傾けた。
針が刺さっている上に、掌に人の掌が重なっていた。
その人物の頭はベットの縁に預けられていて、包帯が巻いてあった。
寝顔まで不機嫌面な伏黒恵くんは、どうやら私の手を握ったまま眠ってしまったみたい。
いつからこうしてくれていたのだろう。
少しだけ軽くなった体を起こして、恵の頭を撫でた。
「…や、おとめ、さん?」
「おはよ」
昨日と違い、とても眠そうな顔をする恵。
恵も手に違和感を感じたのか、私と繋がっている部分を見て、即座に手を離した。
「すみません」
「覚えてないけど、どうせ私が頼んだんでしょ」
「…まぁ」
昨日の夕方頃からの記憶が全くない。
恵があの男の子を追いかけて、どうなったのか…。
思い出そうとしても、何一つ、手がかりすら思い出せない。
「いやー、頭スッカラカンだわ〜」
「何も覚えてないんですか?」
「うん、何も」
恵が変な顔をする。
私は”また”何かやらかしたのだろうか。
「…八乙女さんは…まだ”八乙女さん”ですか?」
「…ん?」
「やっぱり、なんでもないです。気にしないでください」
恵は俯いたが、チラチラと私を見てくる。
恵が言いたいことは、全く伝わってこなかったし、言葉の意味すら不明だ。
「と、とにかく。後で五条先生は連れてきます」
「…悟が宮城にいるの?」
「それも覚えてないんですか」
「…うん」
悟が。
宮城に?
何で?
「詳しいことはあの人から聞いてください」
「な、何で悟がここにいるの?」
「それも、あの人から聞いてください」
「ちょ、恵…」
恵は立ち上がって、隣のベットへ移動した。
なんの説明もしてくれない。
「おはようございまーす」
タイミング良く(悪く)、看護師さんが入室してきたおかげで、追及することもできない。
せめて、任務がどうなったかどうか知りたいのに…。