第30章 疲れとストレス
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目が覚めると、そこは病院で。
病院独特の匂いがした。
ズキズキと痛む頭に手を伸ばしてみれば、大層に包帯が巻かれていた。
時刻を確認するべく、カーテンを開けると、窓の外はまだ真っ暗で、あれからどのくらい時間が経過したのか分からなかった。
ベットの隣に置かれている小さな棚の上にメモが残されていた。
『明日の朝か昼頃迎えに行くからねー by 五条』
つまり、明日までここにいろと…。
「ん〜……」
隣のカーテン内から聞き覚えのある唸り声が聞こえてきた。
スリッパを履いて人様のカーテンの中をチラリと覗くと、そこには点滴を打って眠る八乙女さんがいた。
虎杖が指を喰った時に目を覚ました八乙女さんは、見るからに様子がおかしく、手に触れてみるととても熱帯びていた。
だから、目の前で苦しそうにする八乙女さんが、熱にうなされていることは説明されなくても分かった。
「…さと、る?」
うっすらと潤みまくった目を開けた八乙女さん。
五条先生と俺を勘違いしているのか、手探りで俺の手を握ってきた。
「違います。伏黒です」
力のない手を優しく振り払った。
すると、八乙女さんの目から涙が零れた。
「行っちゃうの…?また…置いてくの?」
泣いている八乙女さんも。
ここまで弱っている八乙女さんも。
縋るように鳴く八乙女さんも。
見るのは初めてだった。
「行かないで…、1人は…やだよ」
また。
八乙女さんが手を握ってきた。
今度は振り払わなかった。
八乙女さんの顔が、少し和らいだ気がした。
きっと、五条先生は今、とても不安だろう。
虎杖なんか置いて、こうやって八乙女さんの手を握りたいはずだ。
そして、八乙女さんも五条先生を求めている。
その事を五条先生自身が1番分かっているはずなのに。
大切な人を置いてまで、呪術師として生きるなんて。
やっぱり、五条先生は”大人”なのだと思う。
そして、八乙女さんはその力を俺に求めている。
けれど、俺は…やっぱり”子供”だ。