第30章 疲れとストレス
千春が出てきたけど、どうしても殺して欲しくなくて…。
”お母さんに会いたいの?”とか、聞いてみたけど…。
期待は簡単に裏切られて…。
それでも、千春は私の言うことを聞いてくれて…。
でも、その時の私には周りが見えてなくて…。
そしたら、千春が私の飴缶を潰してしまって…。
『大丈夫。ちょっとだけだから』
「千秋も、千冬もそう言ってたもん…」
『本当に、ちょっとだけだから』
体に力が入らない。
謎の圧迫感と、不安感。
どこか怪我でもしていれば、そこを中心に労れるのに。
『ちょっと待ってて』
嫌だと言ったのに。
千春は行ってしまった。
1人になってしまった。
この感覚、懐かしい。
あの頃みたいだ。
何も持ってなくて、何も抱えていない。
とっても苦しかった。
『ただいま』
千春は刀と潰れた飴缶を地面に落とした。
両方を手に取ると、少しだけ安心感を得た。
「はぁ……はぁ……」
『泣かないで』
「気持ち、悪い…」
『ごめんね。熱があったのに、私が無理させたから…』
私は風邪を引いていたのだろうか。
誰でもいいから、この気持ち悪さを取り除いて欲しい。
『水』
「飲めないよぉ……」
『口をゆすぐだけでもいいから。ね?』
言われた通りにすると、口の中のまどろっこしさが消えた。
けれど、千春が望んでいたように、水を飲むことは出来なかった。
『ホテルに帰ろうか』
「恵が…」
『うん、伏黒恵は病院に行くよ』
「違うの…」
『何が?』
「恵がね…」
『うん』
恵が…。
恵が…。
言いたいことはあるのに、言葉が出ない。
『しっかりして』
「ちゃ…くて、めぐみ…がね、さっき…」
『千夏!』
あぁ、ダメだ。
何もかもが。
グルグルと渦巻いてる。
もう無理。
オチル…。
「千夏…!」
悟だ。
悟の声だ。
最後に聞こえたのは、大好きな人の声だった。