第1章 千夏様
建物の構造を無視して、部屋まで一直線。
冷蔵庫からコーヒー牛乳を取り出して、お菓子棚からミニドーナツを取り出す。
サザエさん開始まであと三十秒。
テレビの前で至極の三十分を過ごす準備はできた。
ドンドン!!
無視。
「八乙女さんーー!」
ドンドン!!
苦渋の決断。
大股で扉に近づき、ノブに手をかける。
「じゃーかしいわ!!!日曜の夕方、舐めんな!!」
「ひぃ、すんません。緊急事態なんです」
サザエさんを見逃すよりも大変なことなどそうそうない。
「言葉を選んで説明しな」
「実は……ゴニョゴニョ」
灰原は私の耳に聞こえる程度の小さな声で話した。
その内容は小声で話す価値のないものだったけれど。
『サザエでございまーす』
「硝子に頼めば?」
「家入さんのところにはもう行きました」
クラスメイトのクズがクズと力試ししているらしい。
つまり、喧嘩。
それを止めてほしいと、灰原に頼まれた。
自分でやればいいのにと思ったが、あの二人の間に入れば灰原は怪我をするかもしれない。
まあ、私は誰がどこでけがをしようと関係ないが。
「生憎、今日の活動エネルギーは…」
そこに、ポンと。
夜蛾先生の顔が浮かんだ。