第1章 千夏様
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「千夏」
「気安く呼ぶんじゃねーよ、ばーか」
そう毒づいた相手は教師。
ごつい見た目からは、全く想像できないけれど。
マフィア出身とか言われたら、秒で納得するのに。
「何言われるか、分かってるよな」
「ッチ…」
ポッケから飴ケースを取り出して、ビー玉のような飴を一つ口に入れた。
「任務中の利己的な行動による建物の破壊」
「別に壊そうと思ってたわけじゃねー…し」
先生の顔に陰影がつく。
言い訳をする暇はなさそうだ。
中学校と同じくらいの広さの教室には、机が四つのみ。
このクラスには、いや、この学年には生徒が四人しかいない。
その教室に自分とこの教師しかいないのだから、教室がとても広く感じる。
こんなにスペースを持て余しているのだから、わざわざ教室の真ん中に向かい合って座る必要はないと思うが。
「いいか。お前は呪術師だ」
毎回同じような説教に飽き飽き。
んー、とか、へーい、とか。
そんな簡単な返事ばかりになるのは仕方ないと思う。
「毎回毎回…」
「おっ。そろそろ時間だ」
机の上に置かれた書類を先生の方にスライドさせて、立ち上がる。
「サザエさんが始まっちゃうから、アデュー」
「おい、話はまだ…」
廊下を走りながら、先生に手を振る。
先生は諦めたのか、教室におとなしく戻った。
ちゃんと報告書も出したし、あの先生も追いかけてこない。
なにより、あと二分でサザエさんが始まる。
先生に呆れられてでもバックレるのに、これ以上の理由はない。(適当)