第30章 疲れとストレス
「ん?何かあそこ、盛り上がってるな」
「…何でしょうね」
人の間から覗くと、おじさんと男の子が何やら勝負している様子。
あちらこちらで聞こえてくる声をまとめると、あれは砲丸投げという陸上競技のようだ。
恵が興味ありそうなので、少し止まってみることに。
「す、すげぇ…」
「あいつ、やっぱり異次元だわ…」
重そうな鉄の玉が、まるで野球ボールのようで。
勢いよく飛んでいき、サッカーゴールにぶつかった。
「…真希みたい」
「俺もそう思いました」
呪力で強化されたわけではなさそうで。
前にいる男の子達が言っていたように、あの男の子は異次元並みの力の持ち主だ。
「…行こう」
「そうですね」
やはり世界は広い。
彼がオリンピックに出れば、日本は負け知らずだろう。
「いそげー」
というか、呪術師が偽って大会に出場すれば…。
「おい、オマエ!」
例の男の子が横をとおりすぎた時に感じた呪力に恵が反応した。
しかし、男の子は既にはるか遠くへ。
どうやら、50mを3秒で走るらしい。
「追いかけましょう」
「うーん。私、パス」
「は!?」
意気込んでいた恵が、私を睨む。
「パス。私は行かない」
「何言ってんすか」
「んー。だるい」
「ふざけないでください」
違う。
あれではない。
あの呪物の気配は、あんなものじゃない。
「恵1人で行ってきなよ」
「ほんとっ…!」
喉で言葉が詰まっている様子。
その言葉を無理やり飲み込んで、恵はいつもの顔で私を見下ろす。
「…もう勝手にしてください」
「ん。何かあったら連絡ちょーだい」
心の中で恵に謝る。
いくら恵でも、危ない方には私が率先して向かわなくては。
ホテルの鍵を恵に渡して、私は1人で校内に立ち入った。