第30章 疲れとストレス
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酷い夢を見た。
先の見えない真っ暗な空間で、俺を中心に五条先生と八乙女さんが、永遠と歌を歌いながらクルクルと回っていた。
目が覚めて安堵したのは言うまでもない。
体を起こして小さく欠伸をした。
時刻は7時丁度。
周りを見たが、やはり八乙女さんはまだ起きていない。
少し浮腫んだ足を動かし、部屋の中央に置かれたソファーを覗いた。
しかし、そこには誰もいなかった。
ソファー前にあるテーブル下で、八乙女さんは眠っていた。
(一体、何があったらそこに入るんだよ…)
ソファーから落ちただけではない。
寝相の悪さに感心するまであった。
「八乙女さん、体痛めますよ」
時間に余裕があることは俺も分かっていた。
まだ寝続けても構わないが、床で寝ているのを無視できない。
「八乙女さん」
「……はぁぃ」
小さく返事をして、縮こまった八乙女さん。
ソファーに戻ることを提案すると、先程と全く同じ返事をされたので、寝ぼけて話を聞いてないのだろうと結論づけた。
もういいや、と八乙女さんに快適さを求めてもらうことは諦め、コップ一杯の水を飲んだ。
朝はビュッフェを食べに行くと豪語していた八乙女さんだが、起きる気配がないので勝手にルームサービスを頼ませてもらった。
料理が届くと、鼻が利く八乙女さんはモゾモゾと動き始め、横になったままこっちを見ていた。
ホラー映像のようだった。
「おはようございます」
「…はよ」
女性の寝起きに物言うのは良くないことは分かっているが、八乙女さんを見て洗面所を勧めずにはいられなかった。
八乙女さんも慣れているのか、特に気にすることなく欠伸をした。
飾らない姿に、八乙女さんらしさを感じた。
「何か食べますか?」
「…何、あんの…」
「オムレツとサラダ…。あと、八乙女さんが好きそうな洋菓子です」
「…食べるぅ…」
そう言ったものの、八乙女さんは静かに目を閉じて動かなくなった。
その様子を見て、自然と笑いが込み上げてきた。
結局、八乙女さんが活動を再開したのは11時53分。
どうして起こしてくれなかったの、と理不尽に怒られたものの、八乙女さんの機嫌は洋菓子で買うことが出来た。