第30章 疲れとストレス
「…っ、切られた」
携帯に向かって怒りをぶつける恵。
反対に私は、今回の電話で流石に私の通知に気づくだろうと、悟からの返信を期待していた。
「どうする?」
「見つけるまで帰ってくんなって言われました」
「…マジ?」
その”帰ってくんな”はどっちの意味だろう。
喧嘩中の私には、呪物の捜索を目的とする以外の意味としても捉えられる。
「ったく。あの人のこと、どうにかしてくださいよ。八乙女さん、恋人でしょ」
「無理無理。昔からあんな感じだもん」
とにかく、ここにいても仕方ないということで、とりあえずホテルに戻ることにした。
「ほんと。何で百葉箱に保管してたんでしょうか」
「さぁね。でも、そのおかげで捜索範囲が狭くて助かる」
「そうですね。それでもなかったら、困りますけど」
杉沢第三高校は無法地帯ではない。
それに、趣味で百葉箱の中を確認する人なんて、今まで聞いたことも見たことも無い。
だから、指を持っていった犯人は、ある程度絞れてくる。
「こちらがお部屋の鍵になります」
「どーも」
部屋の鍵を握りしめ、反対の手でスーツケースの取っ手を握る。
「ちょっと待ってください。何で”1つ”なんすか」
恵が私の左手を指す。
「だって、1部屋しか借りてないから」
「何でですか!?」
「元々、悟に任されたやつだったし。私が同行するのも急遽決まったことだし」
「今からでも、借りれるでしょ…!」
口うるさい恵を置いて、私はエレベーターに乗り込んだ。
鬱憤が溜まっているらしい恵は、大きくため息をついてから、仕方ないと言った様子で遅れて乗ってきた。
「てっきり、知ってるのかと思ったよ」
「知りませんよ…。俺、五条先生に殺されませんかね」
「悟もこのこと知ってるから大丈夫。だから、あんなに猛反対してたの」
「…すげー嫉妬深い人なだけだと思ってました」
「はは!嫉妬深いのは合ってるけど、あそこまでじゃないよ」
静かで綺麗なベルの音でドアが開き、エレベーターから降りた。
部屋に入ると、何とも悟が選びそうな部屋なと思い、思い出されたように携帯を確認した。
通知はなかった。