第29章 不穏状態
その男の子というのは、当たり前のように…恵。
私の彼氏は恵をライバル視している。
恵に限らず、事あるごとに私の周りにいる男に威嚇しているのだが、恵以外の男と言ったら七海ちゃん、学長…等しかいないため、
また、恵と関わることが多いため、必然的に恵には迷惑が掛かってしまう。
そして、この迷惑と呼ばれる愛が、大喧嘩の火種となった。
「やっぱり…嫌!!」
「しつこい!そっちが頼んだんじゃ…」
「ねぇ~、恵~。一人で行ってきなよ」
「別に俺は…」
「悟!」
事の発端は数日前にさかのぼる。
近年問題となっている、特級呪物である両面宿儺の指。
封印が追い付かず、徐々に呪いが抑えきれなくなってきていた。
指は日本全土に広がり、存在が確認できていないものもある。
その内、ある場所が分かっていて回収可能なものは、高専に集められて、天元の結界で厳重に保管されている。
その収集作業の任務が悟に回ってきた。
しかし、悟は”恵にやらせよー”と言い、任務を投げ捨てた。
そして、恵はそれを律儀に拾った。
だが、学長はいくら2級呪術師だとはいえ不安だと言い、私を付けようとした。
任務を抱えていなかった私は深く考えずに了承し、恵と任務に出向くことになった。
しかし、ここで悟が猛反対。
いくら任務だとしても、男女2人が泊りがけで行くなんて許せないと、冗談交じりに怒った。
最初は可愛い嫉妬だと思っていたが、出発日が近づくにつれて、冗談が冗談でなくなってきた。
恵相手にどうこうすることはないし、任務に対してそんな浮ついた気持ちはない。
それを悟も分かっているはずなのに。
私はだんだんイラついてきた。