第29章 不穏状態
『ダメだって!ソフィ!』
『ばーか。これをこうすれば…!』
自分が本当に嫌いだ。
自己肯定感が極限まで下がった私は、画面の中で苦しむ2人を見ながら泣きそうになる。
泣かないように顔にグッと力を入れると、体が油断してお腹が鳴る。
その音にも反応して泣きそうになる。
「…何か食べたいものある?」
悟の優しさにも泣きそうになる。
自分も疲れてるはずなのに。
けれど、私は今反発心に駆られている。
「いらない」
「…コーヒー牛乳は?」
「いらないのっ!」
大きな声を出したせいで、顔のバランスが崩れて涙が零れた。
それに自分が一番驚いて、涙を拭ってくれようとした悟の手を振り払う。
その行動に自分が一番傷ついて、全てが爆発した。
「何なの…!みんなして…。私だって頑張ってるのに!」
「ちな…」
「そうじゃないの、違うんだって…!」
自分でも何を言ってるか分からない。
大声を出したくて。
内容のない言葉を続ける。
「掃除しても、掃除してもゴミ出るし…!掃除機は音うるさいし…」
「じゃあ、今度静かな掃除機買いに行こ」
「またそうやって無駄使いしてさぁ…!私の節約を無駄にしないでよっ…!」
いくら悟でも、怒る時は怒る。
以前から私達の喧嘩の種だった金銭感覚の違いは、今日も喧嘩の火種となる。
「何でシャツにお金かけんのさ!し〇むらとか、ユ〇クロとかでいいじゃん!」
「だーかーら、僕は着たいと思ったものを着たいの」
「〇Uでかったシャツを私が染めてあげるよ。それでいいじゃん…!」
「全然違うよ。千夏は素人が真似した模倣映画を買う?買わないっしょ?」
いつも以上に情緒がおかしい私に、悟が焦りながら反論してくる。
決して怒鳴らず対応してくれる悟に、本当に申し訳なくて、申し訳なくて。
「ごめんなさい…。頭、冷やしてくる」
「どこ行くの」
「ついてこないで…、また傷つけちゃう」
お腹は痛いし、イライラするし、悟を怒らせちゃったし。
頭の中はぐちゃぐちゃだった。
その結果、深く考えずに本能の向くまま、財布だけ持ってスウェットの格好で家を飛び出した。