第29章 不穏状態
無理矢理にでも冥々さんについていけば良かったと後悔したのは、高専についた直後だった。
宿儺の指を担当である天元の側近に渡すと、指を見たその人は何故か怒ってきた。
遅いだの、変な紙を巻き付けるなだの。
遅いのはタクシーを利用したからだと言うと、高専の車を使えと言われ。
適切な保管方法を教えてくれなかったから、適当に頑張ったのだと言うと、何も知らない状態でどうして任務に行くんだと言われ。
冥々さんに呼ばれたからと言うと、大体どうしてお前がこんなことをできるのか、と話をすり替えられて。
私はイライラしていた。
そして、私のイライラメーターは伸び休むことを知らない。
生理中であることも関係しているのだろう。
帰りのバスが、バス停に着いた途端出発してしまったり。
スーパーの値下げ品を、パーマが綺麗にのったおばさんに取られたり。
混んでいるレジに仕方なく並んでいたら、新しい場所が開放されたことで、私より後ろに並んでいた人が先に会計を終えてしまったり。
些細なストレスが積み重なって、家に着いた時には既に爆発寸前だった。
けれど、私はまだ頑張れる。
悟が喜ぶ顔を想像すれば、洗濯物の取り込みと、夕飯作りなんて、苦ではない。
だから、お風呂に入った後にフライパンを振っていた私は、鼻歌を歌っていた。
しかし、状況が一転したのは、冷蔵庫の中を覗いていた時のこと。
スマホから流れていた音楽が一瞬小さくなり、着信を教えた。
『今日、帰れないかも。任務が難航中。僕の分の夕飯はいらないよ』
そんな文章とともに送られてきたのは、ピースサインをした悟。
送られてきた写真をいつものように保存し、スマホを置くと、何故か泣きたくなってきた。
ジューっと言う音が換気扇の音に混じって、何故か切なくなる。
「遅いって…」
悟は何も悪くない。
私が冥々さんと任務に行くと、必ず帰りが遅くなって、今日みたいに時間に余裕が無い。
だから、いつもならこの時間に夕飯の必要不必要を伝えても、なんの問題もない。