第29章 不穏状態
「指、回収ぅ!」
気持ちの悪い指をつまみ上げ、用意していた札で包む。
「また戦い方が変わったね」
「ん。色々あってさ」
自分の術式への理解はだんだん深まって、今では型にハマった動きができるようになった。
1つは半径5m以内の瞬間移動。
素早く相手に近寄ることも、離れることもできる。
もう1つは以前から使っていた雷の応用。
これはどこがどうなって利用できているのかは知らないが、条件が整えば静電気から雷まで、多種多様な攻防ができる。
「上は知ってるのかい?」
「うん。ちゃんと呪術師として登録されてますっ!」
証明書を冥々さんに見せつける。
あの時とは少し仕組みが変わったらしいが、術式を伝えないといけないなんて面倒だ。
「そしたら帰ろう。やることが沢山ある」
「えっ。またお手伝い?」
「無償でね」
「げっー!絶対時給出てもいいと思うのに」
切れた頬から流れる血を拭いて、冥々さんの後を追う。
以前、このような状況で上から呪霊が落ちてきて、冥々さんに殺されかけたことがあるため、警戒してしまうのは仕方がない。
「ねーねー。また、パンケーキ食べに行く?」
「もうお腹が空いたのかい?」
「ちょっと」
冥々さんは基本的に表情が変わらない。
けれど、お金が関わる時だけ感情が出ると存じている。
しかし、何故か冥々さんはニヤッと微笑んでいる。
「今から飛行機に乗るけど、それでもパンケーキを食べに行きたい?」
「えっ…。聞いてない!何も持ってきてないよ!?」
「言ってないからね」
「え、どこ、どこに行くの!?」
「…嘘だよ。行くのは私だけ」
今日の冥々さんはおかしい。
冥々さんらしくない。
「コンブがいなくなった千夏は、実践でしか役に立たないからね」
「…きーずーつーくー」
「事実」
「…そーだけど」
冥々さんはまた笑って、私の腕をヌルッと振りほどいた。
冥々さんからいい匂いがした。
「また頼むよ」
「…はーい」
先に来たタクシーに冥さんが乗り込み、私は後に来たタクシーを利用した。
タクシーの運ちゃんに”呪術高専まで”と言われると、大抵は怪訝そうな目で見られる。
宿儺の指だとか、刀などは目立たないようにして、一眠りして到着を待った。