第29章 不穏状態
「うーん。なんかパッとしないな」
「もっと奥だろう。行こうか」
宿儺の指があると聞いていたが、それほど強い奴がいない。
気配すら感じないのは、どう考えてもおかしい。
そんな中、いつどこから呪霊が飛び出してきてもおかしくないが、私はとても落ち着いていた。
決して油断しているわけではないが、冥々さんとなら絶対に死なないと思っている。
「そういえば、その首にかけているやつは…」
「あぁ、これ?これは…クリスマスプレゼント。夏油くんからのね」
傑から貰ったループタイに口付けて、冥々さんに見せつけた。
「悟には外せって言われたけど」
「ふっ…。重い男」
「本当にねっ」
もし、悟が別の女からネックレスを貰って、肌身離さず身につけていたら、私だって嫉妬する。
でも、千春がずっと身につけてろと言うため、仕方なく首にかけている。
傑と千春の繋がりを知っている私や悟は、それを無視することは出来なかった。
「その代わり…、コレ見て」
髪を耳にかけ、耳たぶを指さす。
冥々さんは小さく息を漏らして、それきり。
悟から貰ったピアスが泣いている。
「こっちは貰わなかったのかい?」
冥々さんが片手を振る。
向きを整えて考えると、それは左手だ。
「待っててって言われた」
小さな花がポイントのピアスに触れて、我慢できずに笑みが漏れる。
『千夏は落ち着きがないから、幾つもプレゼントしたら無くされそう。だから、ココはその時まで空けて待ってて』
左の薬指を撫でながら、悟は言った。
婚約指輪とか、何とか言うものもあるけれど、私に複数のアクセサリーは管理できない。
悟はその事を見抜いていた。
「…」
「…絶対コイツじゃん」
「かくれんぼが上手かったね」
「冥々さんがそんなこと言うなんて」
「意外かい?」
「…別に?」
冥々さんは前に出るのを好まない。
だから、私がある程度戦って、トドメは冥々さんが刺す。
いいとこ取りだと何度も思ってきたが、今となってはどうでもよくなった。