第29章 不穏状態
「ざんねーん…」
「楽しみにしてたのにね」
「う…ん」
よしよしと頭を撫でられると、余計に気分が沈む。
今日は呪術高専の入学式(仮)だったのだが、入学したのは恵のみ。
予定人数は2人だったけれど、もう1人が何らかの理由で入学を先延ばしにしたらしい。
書面上は入学しているけれど、実際に東京に来るのはもうしばらく先だという。
「拉致してくれるなよ」
学長が真面目な顔をして、忠告してくる。
「そんな事しないよ。入学が取り消されたら考えるけど」
あの子は私のことを嫌っている。
東京に来たがっていたことだから、自分から入学を取り消すことは無いだろうけど、私が無理矢理連れて行こうとすれば、万一の可能性がある。
「どこか行くの?」
「上に頼まれて、ちょっくら任務に」
「へぇ。行ってらっしゃい」
「アデュー♡」
刀1本背負って、飴をひとつ口に放り込む。
昔ほど過剰に反応しなくなった悟と、人形を作っている学長に手を振って、高専を出た。
冥々さんの新しい番号を打ち電話をかけると、待ち合わせ場所に既にいると言うので急いで向かう。
「きゃー、冥々さん!会いたかったぁ」
私がどれだけ媚びても、冥々さんは顔を変えない。
相変わらずの嫌な笑顔に寒気がする。
「会うのは久しぶりだね」
「連絡はしてたのにね」
冥々さんに腕を絡め、予約していたタクシーに乗り込む。
高専の車を利用したいところだけれど、生憎私は運転ができない。
補助監督を連れて行きたくないし、冥々さんに運転させるわけにはいかない。
「あれ、なんだっけ。憂憂くん?今日はいないの?」
「千夏と会う時は連れてこないことにしてる。口説かれたら困るからね」
「そんな事しない!私をなんだと思ってるのさ」
冥々さんとはずっと連絡を取り合っていた。
何故なら、冥々さんこそが私の存在隠蔽に肩入れしてくれ、色々な面で支援してくれていたから。
このことは2人の秘密。
上は冥々さんが私を殺すためにタイミングを待っていると思い、悟達は冥さんと繋がっていることすら知らなかった。
上は冥冥さんの嘘に気づきながらも手を出さなかったというが、その詳細を私は知らない。
今更掘り返すのも怖いし、この平和を保とうと思う。