第28章 初枝さんの思惑
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いつだってそうだ。
常識なんか棚に上げて、自分の良心で物事を量る。
「初枝さん。これ、美味しいですよ」
「初枝さんも一口どうですか?」
「結構です」
今日、初めて五条家の朝ご飯が粗末なものになった。
目玉焼きとベーコンを焼いて、パンに挟んで上からマヨネーズをかけて。
邪道以外の何物でもない。
和食ですらない食べ物に、口をつけるものか。
全てはあの小娘のせい。
彼女が坊ちゃんの婚約者?
許すまじ。
下女達が楽しそうに食事する場を抜けると、そこに広がる庭園で坊ちゃん達が遊んでいた。
「懐かしいですねぇ。まさか、あんなわんぱく娘が坊ちゃんの婚約者だなんて」
「小さい頃は気づきませんでしたけど、あの着物と、初枝さんの荒らげた声を聞くと、やはり懐かしいですね…」
「静江さん。やめてくださいな」
「あ、すみません。ふふ」
今でも、五条家の下女にはあの頃を知る者がいる。
坊ちゃんが忙しくなってから、この家を去るものもいたため、今では私を含めて3人ほど。
「またお花を植えないとですね。今や、初枝さんの趣味になってますけど」
「本当にお優しいんだからっ。今年は何にするんですか?」
「さぁ…何にしようかね」
徹底的なセキュリティがあるわけではないこの屋敷に、まさか小さな女の子が侵入してくるなんて、誰も思っていなかった。
名のある家に不法侵入するとどうなるかなんて、不文律で誰もが分かっているだろう。
だから、小娘を見つけた時は思わず手を上げてしまった。
それに懲りずに何度も、何度も。
もし、上に漏らしていたら、きっとあの小娘の命はなかっただろうに。
「婚約、認めてあげるんですか?」
「はっ…。まさか」
坊ちゃんにはもっと素晴らしい人がいる。
気品に溢れて婉容な女性。
1歩後ろを歩くような奥さんが望ましいというのに。
──小娘が坊ちゃんの腕を引っ張る絵が思い出された。