第28章 初枝さんの思惑
夕飯後、お風呂をお借りしてから部屋に戻ると、ようやく2人の時間を手に入れた。
私が入浴している間に、悟がおばばにオネダリをしたらしい。
何をネタに掲げたかは含みのある言い方をしてごまかしていたが、多分普通に頼み込んだのだろう。
おばばは悟に甘いから、特別なことをしなくても、言うことを聞いてくれると思う。
「なんかごめん」
「ううん。おばばとバトルするの、意外に楽しかったし」
歳をとった分、少し丸くなっていたおかげで、幼少期のトラウマは消えうせた。
単にあの頃のおばばが元気すぎたのかもしれないけれど。
「ありがとう」
「何が?」
「ん?」
「ん?」
時折、悟は言葉に責任を持たなくなる。
布団の上でくつろぐ悟の顔の上に手をかざした。
「熱あんの?」
「ないよ。それより、これ見てよ」
くるっと転がって、私に突き付けてきた画面には、1年生の頃に行った海で、私がビキニを着たときの写真が写しだされていた。
「ぎゃー!やめてよ!」
「なんで。可愛いじゃん」
「恥ずいって!」
2枚並べられた布団の上で、スマホを取り上げるべく、中々激しい乱闘。
「こっちもいい写真だよ」
「ぎゃ。それはもっとダメ!ブスすぎ!」
「焼き立てのパンみたいで美味しそうじゃん」
「消ーせー…」
「おっと…」
スマホを上に掲げたまま後ろに倒れた悟と、それに伴って前に倒れる私。
慌てて体の横に手をつくと、意図せずとも押し倒すような形に。
数秒そのまま見つめ合っていたが、とても照れくさくて、お互い笑ってしまった。
髪を耳にかけても、重力でまた落ちてきてしまう。
それを悟がかき上げてくれたついでに、髪が流れないように手で押さえてくれた。
いつの間にか悟はスマホを手放していたが、今となってはどうでもいい。
引き寄せられるように唇を重ね、体を寄せた。
「…声、抑えて」
「…じゃあ、塞いで」
周りに反対されてもいい。
ただ悟の隣にいたいだけだから。
ずっとそう思っていた。
けれど、今日、初めて、私達のことを認めてほしいと思った。
認めてくれたら、どんなにうれしいだろうか、なんて考えてしまった。
障子の外に月明りを感じる。
今日も悟のことを考えて、夜は更けていく。