第28章 初枝さんの思惑
「まだ終わんないの?本当に暇なんだけど」
「ちょっと…」
「暇」
「だーめ」
くっついてこようとする悟を引きはがす。
「純粋な思い出を汚さないで」
「どういうこと?」
「ここは…そういう場所じゃないでしょ」
ここは一種の聖地だ。
初めの頃は、ここの花や緑に隠れて、コソコソと遊んでいた。
まるで忍者になったようで、ワクワクドキドキしたことを思い出した。
「いやぁ。初めはあんまり花とか咲いてなかったのに、だんだん池周りが充実してさ。隠れやすくなったよね」
「結局、追い出されたけど」
「だから、ちゃんと手入れしてあげないと」
「俺も手伝う。軍手貸して」
今年は何を植えるのだろうか。
撫子、チューリップとか、マリーゴールドとか?
「シロツメクサは咲くかな?」
「さぁ。あれって、どこにでも咲くんじゃない?」
「前は咲いてたよね。おばばに頼んでみてよ」
「はは。”また?”て言われそう」
「またって…どゆこと?」
「小娘!サボるんじゃない!」
おばばが昔のようにずかずかと割って入ってきて、私の腕をつかむ。
「もう…。坊ちゃんはこんなことしなくていいんですよ」
「やりたくてやってるから大丈夫。暇だったし」
「少し早いですけど、湯浴みして汗を流してきたらどうですか。準備はできてます」
グイっと引っ張られて、浴衣の袖が脇まで下りてきた。
「貴方は私についてきなさい。夕飯づくりを手伝ってもらいます」
「初枝さん。一応千夏はお客さんだから…」
「違います。この娘は、今も昔も侵入者の類です」
仕方なく立ち上がり、軍手を外した。
「そういうおばばは、今も昔も、本当に私のことが大好きですね」
「冗談じゃない」
肩に置いた手を即座に払われ、再び逃げないように腕を掴まれた。
「じゃあ、行ってくる。夕飯楽しみにしてて」
「ふしだらな…!」
「投げキッスくらい普通です」
おばばにはそろそろ理解してもらわないと困る。
おばばと同じくらい悟のことが大切で、大好きな人がいることを。
それに、少しのいちゃつきくらい許してもらわないと、私たちは共倒れだ。