第4章 祓う者と殺す者
「それじゃあ、冥さんたちを探しに行くよ」
「うん」
歌姫が1歩前に出た。
私が動かないことに気づき、睨みながら1歩戻ってきた。
そして、私の腕を掴んで、また1歩前に出た。
「一体どうしちゃったの」
「ごめん」
「……調子狂うなぁ!もぉーーー!」
初めて呪霊を払った時。
私の横にいたのは夜蛾先生だった。
あの時は今より酷かった。
足に力が入らなくなり、夜蛾に抱き抱えられながら車に戻った。
今でも覚えている。
あの時の虚無感を。
「あのさ、歌姫」
「何よ」
「もし呪霊が出てきたら、試したいことがある。少し、少しだけでいいから、祓うの待ってくれる?」
「……何するつもり?」
「お願い」
私が知っている中で、唯一呪霊を祓わない良い方法がある。
封印する訳でもない。
自分の力に変える方法。
「…分かったよ。黙って見てればいいんでしょ」
「…ありがとう。死んだら、皆んなによろしく言っといて」
「は?」
走るスピードが落ちた。
「千夏、あんた、まさか…」
「冗談だよ」
「…冗談に聞こえなかったんだけど」
これはよくない。
歌姫にそんな顔は似合わない。
歌姫はイライラしてる時が1番輝いているのだから。
それが私達の関係なんだから。
「それは歌姫がバカだからじゃない?」
「…ほんっと、可愛くない!」
私たちは知っている。
”いつも通り””平和な”会話をすることが、どれだけ難しいか。
何が自分の最後の言葉になるか、何が相手との最後の会話になるか。
目の前の人が簡単に消えてしまうことを、私たちは知っている。
「ほら、行くよ!」
「はーい、歌姫センパイ」
「……言っとくけど、いくら可愛くないからって、千夏を見捨てることは絶対にしないから」
「…はーい♪」
歌姫はきっと簡単に死なない。
強い上に、優しいから。
それに、私が守るから。
呪霊は人を傷つける。
だから、人は呪霊を祓う。
この関係を変えるための救いの手段。
私が探していた方法。
それは────
夏油傑。
彼の手にあった。