第28章 初枝さんの思惑
「さぁ。坊ちゃん。より美味しい方を選んでくださいな」
訳も分からず連れてこられて悟は、クエスチョンマークを頭の上に乗せて、目玉焼きを食した。
食べ終わると、口の中がどろどろすると言って、水を大量に飲んでいた。
「どっちが好みでしたか?」
おばばは勝利を確信しているみたいだが、悟の答えは聞かずともわかる。
「こっち」
悟が持ち上げたのは、私達から見て左側のお皿。
私の目玉焼きだった。
「な、なんで…」
「んー?だって、千夏の目玉焼きって最強だから」
公平をきすため、目玉焼きの作成者は隠していたというのに、私の目玉焼きをサラッと当てた。
それに加えて、ありがたき言葉。
「もちろん、初枝さんのも美味しかったよ」
「坊ちゃん……えーい!まだまだぁ!」
それから、まだまだおばばの花嫁修業は続いた。
本人は私に根を上げさせたいらしいが、如何せん私は丈夫な体とハートを持っていた。
長い廊下の水拭きを任されたものの、足腰には自信があるため、難なくクリア。
裁縫も、小さい頃から洋服のほつれを自分で直していたおかげで、おばばの雷は落ちなかった。
一番大変だったのは洗濯だ。
貶されながらも、強靭な精神力を持って、何とか終わらせた。
「水分補給は適宜行いなさい」
「はーい」
嫌味を言いながらも、無理強いはしてこない。
おばばは意外と優しいのだ。
庭の手入れを始めてから10分が経過。
桜の花びらが舞う様子を見ながら、せっせと手を動かしていた。
しかし、突然何も見えなくなった。
「だれでしょーか」
分かっているけれど、最大限にとぼけながら回答する。
「えーっと。悟!」
「せいかーい」
昔の私の真似だろうか。
後ろを振り向くと、桜の花びらの山を手に乗せた悟が。
タイミングよくふーっと息を吹きかけたせいで、私の顔に花びらが直撃。
「うわっ…!」
「ははは!髪の毛にめっちゃついたねー」
そういう悟の髪の毛にも、自然に落下した花びらがついている。
お互いの精神年齢の低さに、二人して笑った。