第28章 初枝さんの思惑
「いくら私達のような下女がいても、炊事くらいはできてもらわないと困ります」
昔ながらの石造りの炊事場。
流石に今は炊飯器を使っているようだが、以前は竈を利用していたという。
そんな炊事場を使って何をするかというと、料理を介して私を評価するらしい。
「食材ならある程度揃ってます。得意料理で構わないので、なにか作ってくださいな」
大きな冷蔵庫を覗くと、おばばの言う通り、何でもそろっていた。
料理が得意でもなく、不得意でもない私が、この場を借りて大層なものを作れるわけがない。
肉じゃがだとか、筑前煮だとか。
そういう求められている料理の形を作ることはできる。
けれど、それではおばばに貶されて終わりだ。
何年も五条家の世話を焼いてきた人に、アマチュアの中のアマチュアが料理の味で勝てるわけがない。
だから。
私が唯一誇れるアレを作ることにした。
「何ですか…これは」
「目玉焼きです」
半熟好きなら見るだけで失神してしまうような、完璧な目玉焼き。
黄身はオレンジ色に光り、白身にはハリがある。
「ふざけてるのですか」
「ふざけてません。逆に、この、目玉焼きを見て、情熱を感じないんですか?」
小学生の頃、全く料理ができなかった私は、毎食目玉焼きを作っていた。
試行錯誤を重ね、何度も挑戦し続け、遂に完成した至極の目玉焼き。
これを馬鹿にすることは、何人たりとも許されない。
「こんなもの…。卵を割って焼いただけでしょーが!!」
「そういうシンプルなものが、最も難しいんですよ。目玉焼きを料理に数えたくないと言うのは、私に目玉焼きで勝ってから言ってもらえますか」
こうして、試食会が開かれた。
テーブルには目玉焼きが2つ。
判定員はもちろん、悟だ。