第27章 新たな時代の幕開け
二日酔いが酷いと言っても、硝子と飲んだ日ほどではない。
流石に延期はかわいそうだと思い、代替案を提案した。
少し嫌そうにしていたが、了承してくれたため、恵を連れてとある人の所へ向かった。
「私の後輩の七海ちゃんでーす」
不貞腐れ顔が2つ。
2人とも、真顔が不機嫌顔なのだ。
「恵に足の使い方教えてあげて」
「私は便利屋では…」
「私、あそこで見てるから」
七海ちゃんに話し合いを持ち込まれたら負けることは分かっている。
だから、足早にその場を離れた。
「…」
「…」
「…」
「…始めましょうか。仕事があるので、要点のみ伝えます。残りはあの人に習ってください」
七海ちゃんは抽象的な動きを上手に言語化してくれる。
だから、頭が固そうな恵にはぴったりの先生だと思う。
惠は悟に似て天才肌で、教えられたことは案外サクッとできてしまう。
今回も、七海ちゃんに言われたことを理解するが早いことはもちろん、形に直すのも早かった。
「こんな所でいいですか」
「うん!ありがと、七海ちゃん」
「あなたは人使いの荒さを治してください」
「ん?」
「…もう行きます」
「うん、気を付けてよ!」
スーツ姿で動きにくくないのだろうか。
七海ちゃんを見かけるたびに、そう感じる。
そして毎回、”今度私もスーツを着て運動してみようかな”と、思ってみるものの、スーツを持っていないことに気づかされる。
七海ちゃんが帰った後も、ひたすら動きを叩きこみ続ける恵。
その様子を眺めながら、私は私で本を読んでいた。
そのタイトルは『静電気の歴史』
既に読破しているものの、こうして何度も読んでいるのには訳がある。
ある程度の経験から、自分の術式でできることが分かっていた。
けれど、千春の物言いや自分の感覚から、術式のすべてを利用できているとは言い難い。
千春に術式を付与してもらった時に言われた”歴史を学べ”という言葉をヒントに、術式への理解を深めようとしているのだが…。
これが中々難しく、ここ数週間は停滞が続いている、
そして、今日も何の進展も得られなかった。