第26章 三度目のクリスマスプレゼント
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『もっと優しく…そう』
「このまま固定するの、難しい…」
『大丈夫、ゆっくりやればいい』
皆、千春の圧に驚いているけれど、反転術式を使う時は千春がいないと上手くできない。
現状維持を求めるのなら、もっと簡単なのに。
千春はあんなに非協力的だったのに、私と同じくして頭を冷やし、冷静になってくれた。
ある程度私の反転術式が安定したら、千春個人も治癒に向かってくれるほど。
「…反転術式を使えるのか?」
よく知る声が届いた。
ゆっくり顔を上げると、頬から汗が垂れ落ちる。
「…せん、せ」
…じゃなくて、学長。
訂正が口から出ることはない。
「…まぁ、詳しいことは後で聞こう。上との話も把握させてくれ」
「……はい」
「それはそうと。急ぎで耳に入れたいことがある」
上からまた何か言われたのかな、と思ったけれど違かった。
「最後の挨拶をするなら今がラストチャンスだ」
私と千春の間に共通の衝撃が走る。
「行くなら連れて行く。行かないならそれでいい」
私がすべきことはここで皆の役に立つこと。
そうすれば、私が生きていることが本格的に広まっても、居場所を作りやすい。
「…行って、いいの?」
何故今このタイミングで涙が溢れた?
どうして今なんだろう。
もっと……ふさわしいタイミングがあったはずなのに。
私はいつも空気を読めない。
「行くぞ。まだ間に合う」
それなら硝子も、と思ったけれど、見える範囲に彼女はいない。
「硝子も」
「2人にも言ってある。ついでに、今この場において1秒を争うような重体患者はいない。硝子に確認済みだ」
……ああ、私は所詮この程度か。
皆を助けたいと言い聞かせても、本物の欲望を振り解けない。
患者のことを少しでも考えたか?
いや、私はいつだって自分のことしか────