第26章 三度目のクリスマスプレゼント
痛いなぁ、なんて冗談を言おうと思った。
けれど、言葉1つ声に出せずに、気づいたら僕も腕を回して強く抱きしめていた。
怪我をしているかもしれないのに、ここはフワッと腕を回すべきところだ。
自分で自分の行動に疑問を抱く。
「うっ〜〜〜〜……」
息を止めるように泣く千夏の頭を撫でる。
そして、僕も泣きそうになる。
涙は出ないけど、心が泣き始めた。
アイツとは衝撃的な出会いをして、何かドラマみたいなことがあって、絶対的な友情を感じたわけではない。
でも、会話のテンポが不思議なほど合って、僕が考えていることが自然と伝わって。
移動中の生産性のない会話だとか、しょうもないことから派生する喧嘩だとか、道端で見つける100円をどうするかとか、この野良猫は何を考えてるのかとか。
そんなどうでもいい全ての会話が積み重なるうちに、アイツが特別な存在になっていた。
だから、アイツが道を踏み外した時は腹の底から怒りが湧いた。
久しぶりに会って『久しいね〜』と笑ったアイツに、笑い返そうとしてしまった自分を殴りたくなった。
俺達と過ごす生活では、心の底から笑えなかったと言われて、アイツに、アイツと過ごした時間に、アイツの笑顔をそのまま受け取った自分に、腹が立った。
脆い絆を信用した僕が悪い。
でも、信じたかった。
けど、最悪な結末になった。
もう、何も変えられない。
「ごめん、千夏」
「謝るなぁ…」
僕も千夏のように泣きたい。
悲しみをダイレクトに伝えたい。
でも、僕はとてつもなく不器用だった。
親友を失って、綺麗に涙を流せるほど、純粋ではなかった。
「千夏…。こういうの、最初で最後にするから…」
最低だ。
「抱かせて」
優しくできないし、傷つけるかもしれない。
でも、ムチャクチャにしたい。
何もかも忘れて、千夏を抱きたい。
思考を持たないとされる動物に成り下がりたかった。
「…私が、断るわけないじゃん」
千夏のキスはしょっぱかった。
少し血の味もした。
それでも良かった。
何も考えたくない。
味とか、見た目とか、世間体とか。
そんなものどうでも良かった。