第26章 三度目のクリスマスプレゼント
『どこに行くの?』
「乙骨君のとこ」
そう答えると、千春は私の前に立ちふさがった。
『その前に、一度力を試してみない?』
「今することじゃない」
『乙骨君に酷いケガはない。後の三人も大丈夫。アイツとの別れも済んだ。私には時間が余ったいるように見えるけど』
「それでも。自分勝手な行動はできない」
『自分勝手?どこが』
千春は私にウサギの人形を渡してきた。
『この後、千夏が上層部に呼び出されるのは確実。その時に自分の力は安全です、って言えるの?何もわかってない状況で、上に物言おうなんて考えないで』
「じゃあ術式のことを教えてよ」
『私が知ってるのは術式の効果だけ。威力は千夏の呪力によるから、把握できてない。大事なのは威力のほう。効果のほうは自分で見つけて』
「…はぁ、もういい」
話を無視して走り出した。
千春は並走してきたが、足だけは止めなかった。
『心配くらいさせてよ』
「いい。千春と離れるつもりはないから」
『千秋も、千冬も、コンブも。みんな私のせいでいなくなったんだから…』
「うるさい。それでも、千春は私と一緒にいること。いいね?」
酷いことばかりして、傑がいなくなった途端自分も消えようとする。
傑がいなくなったから自分も消える、というロジックでないことは信用しているが、いくら何でもタイミングが悪すぎだ。
『そう言うなら、なおさらだよ。私がいること自体が危険要素だったじゃん。忘れたの?』
「忘れてない。忘れるもんか」
『それなら、試しておいて損はないでしょ。ねぇ、お願い。心配なの』
「…分かったよ」
こんなに千春が何かを頼んできたことはない。
千春の言っていることは何も間違っていないし、私が聞き入れたくないのは千春に怒っているから。
変なプライドだけが障壁であり、それを無視すると腹をくくった今…。
「移動しよう」
『うん。ありがとう』
千春の頼みを聞き入れたわけではない。
私自身が、私自身の未来を案じただけ。
…まだ、千春への謎の反抗心は消えていないようだ。