第26章 三度目のクリスマスプレゼント
「そうだ。硝子に伝言を頼めるかな」
「いいよ」
「…あの時はすまなかった、と」
「分かった。それだけでいい?」
「ああ…」
今すぐ硝子を呼びたい。
ここに来て欲しい。
そうしたら、最後に全員揃うのに。
「来るね」
傑は少し顔を上げて、前に見える人影を見て笑った。
「千夏」
「何」
「最後に一つだけ」
傑は自力で立つと、そのまま私の肩を引き寄せて抱擁した。
失った腕の方に私の顔が来ないように配慮を感じる。
やはり、全くドキドキしない。
あの頃とひとつだけ違うのは、その原因が既に分かっていること。
ザッ、ザッ、と足音が近付いてくる。
傑が血がついていないほうの耳に口を寄せた。
そのまま、私の耳を噛んだ。
「ひぁ…!」
耳が熱い。
耳を押えて、ケタケタと笑う傑の顔を見るのが精一杯。
「な、何が、したいの…!?」
涙が零れた。
この笑顔は私の大好きだったものであり、金輪際見ることが出来ないことをら知っている。
まだ泣いてはいけないと知っていながら、涙が止まらないのは何故だろう。
「遅かったじゃないか、悟」
強引に涙を拭い、傑と同じ方向を見る。
傑は壁に背を預け、座り込んだ。
「まさか、君で詰むとはな」
嘘つけ。
悟が近づいているのに気づいたから、わざわざここまであるいたくせに。
先程のお返しとして、傑の足を蹴った。
そしたら、反撃を食らった。
「耳真っ赤」
「っ!これ、血だから!」
今から死ぬ人に中指を立てて、貰ったループタイを首に提げた。
「じゃあね」
「ああ」
一瞥もせず、悟の横を通り過ぎた。
私にはやることがある。
2人の最後の時間を邪魔してはいけない。
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「2人は付き合ってると聞いていたけど。もう別れたのか?」
「付き合ってるよ。あれが千夏の優しさだ」
「それはおめでとう。ここまで長かったな」
「どうも。本当に長かったよ」
「ところで、家族達は無事かい?」
*****