第25章 長引く姉妹喧嘩
「のみ、込んだよ」
『次。千秋と千冬にお別れを言って』
「…何言ってんの」
『既に二人は器と化した。一緒にいても意味がない』
乙骨君とリカちゃんは、私たちと同じ術者と非術者の関係。
けれど、術者である私と乙骨君には、圧倒的な才能の差がある。
そのため、私は非術者である千秋と千冬を守ることができず、2人が顕現してからわずか2年で手が付けれなくなった。
3人同時に抱える力がなかったのだ。
「それ、本気で言ってんの…?」
『本気。もっとわかりやすく言うと…2人を抱えたままだと、千夏は術式を使えない』
「はぁ?」
けれど、千春がその状況を覆す圧倒的ポテンシャルを持っていたため、悪霊となった2人が暴走することなく、術式発動の…言わば”道具”として隣にいてくれた。
『そういう術式なの』
「だから、家族を捨てろって?」
『そう』
千春は賢い。
合理的で非常に優れた目を持っている。
だから、きっと。
千春の言っていることは、間違いなく最大の幸福を得られる方法なのだろう。
『1人が死んで大勢が助かるなら、本望なんでしょ。千秋を千冬を殺せば、この先多くの人を助けられる』
「分かってる…」
『その時になって後悔しても遅いよ。あの時2人を殺してたら、こんなことにならなかったって。どうせ千夏は…』
「分かってるって」
ああ。
頭が痛い。
千春はいつ、どこで変わってしまったんだろう。
今の千春を好きになれない。
「2人を…祓えばいいんでしょ」
『”殺す”じゃないの?』
「少し黙ってて」
飴を舐めて一呼吸。
目的を忘れたらいけない。
私がすべきことは、ここにいる1年を守ること。
私情を挟むな。
「千秋、千冬…。今までありがとう。どこかで幸せになって」
”ずっと一緒にいて”
それが私たちをつなぐ呪いだった。
鎖がなくなった今、彼女たちはただの呪霊。
放っておけば、勝手に死ぬだろうけど、最後は私が見送りたい。
何も考えず、二人の首を一気にはねた。
傷口から黒い靄を放ちながら、徐々に姿を小さくしていって、跡形もなく消え去った。
20数年の思い出は、何も残っていない。
『OK。じゃあ次のステップに移ろう』
この殺伐とした別れに涙なんていう甘えはなかった。