第25章 長引く姉妹喧嘩
「お願い。返して」
『…』
「そんなに傑に死んで欲しくないなら、どうして千秋と千冬に術式を残したの?2人を犠牲にしてまで、私が使わないと思った?」
『…いや。千夏なら使うと思ったよ』
「なら、どうして…」
『千夏に死んで欲しくなかった』
矛盾している。
けれど、その矛盾は私が愛し続けてきたものだった。
私を生かして、傑も生かす。
私はその選択を捨てたわけではない。
けれど、どれだけ足掻いても傑を殺す案が残る。
「千春、これが最後。お願いします。最小限の被害にするために、傑を殺すために、力を下さい」
頭を下げて、懇願した。
千春が返事をくれるまで、術式を返してくれるまで、頭は上げない。
『…ほんと、大っ嫌い』
千春は一瞬消えて、次に現れた時には私の武器を抱えていた。
『千秋、千冬。起きて』
久しぶりに見る2人は相変わらずの姿で、顕現してすぐに術式を抜き取られた。
「何して…」
『これから付与するのは、私が知る中で最も千夏と相性の悪いもの』
千春は私を置いて1人話を進めていく。
『呪言は使いこなせちゃうから、あげない』
「な、なんで」
『…私、今でもアイツの味方だから』
そこまでして傑を死なせたくないのか。
今ここで再び戦火を切るのは、望ましくない。
1歩前進したと、ポジティブに考えることにしよう。
『了解したら、これ飲んで』
「何これ…」
『アイツがいつも飲んでただろ。それに似たようなもの』
黒くて丸いもの。
ガチャガチャより小さくて、ビー玉より大きい。
口に入れると、喉が受け入れを拒否して、口より先にいかない。
無理矢理飲み込むと、しばらく喉で止まっている感覚があり、不快だった。