第25章 長引く姉妹喧嘩
千春は私を抱えて、乙骨君を追い抜いた。
「ち、は…る」
千春が私を降ろしたところで、乙骨君が丁度やってきて3人を床に並べた。
乙骨君が反転術式を知っているか不安だったが、説明する必要がなかった。
3人が安定した呼吸に戻ったことを確認すると、乙骨君はリカちゃんを宥めながら歩き始めた。
「乙骨君!」
「大丈夫です。千夏さんは休んでて下さい」
こんなに逞しかっただろうか。
呆気に取られていると、既に乙骨君は下におりて傑の所に向かおうとしていた。
よくよく見ると乙骨君がかけた術式は、現状の容態を保つものであり、治癒までには至っていなかった。
乙骨君の上から、新しく術式をかけ直さなくては。
「千春、術式を返して」
『…』
「この子達を殺してまで、我を通したい?」
『…』
「それでもいいよ。そしたら、硝子を呼ぶから。だから、早く返事して」
できれば、乙骨君の助太刀もしたい。
けれど、それを言ったら返事は一通りに決まってしまう。
『教えてくれ。どうして千夏は友達を殺せるんだ…』
「殺せないよ。でも、殺すことを諦めたら、大切な人が死ぬ」
以前、悟が言っていた。
”1人死ねば10人もの人が助かるのなら、迷わずその1人を殺す”
今回はその事例の典型例となりうるだろう。
『前も言ったけど、アイツが五条悟だったら…。それでも、殺すのか?』
「前も言ったけど、悟だろうが、傑だろうが、殺すよ。勿論、思いつく解決策を一通り吟味してからだけど」
『…嘘』
「嘘じゃない。傑は言葉や暴力で考えが変わるラインを、とうに越えてる。もし、悟が今の傑みたいになったら……私が殺す。それで、私も死ぬ」
本気だ。
元々、今回もそのつもりだった。
傑を殺して、私も死ぬ。
この計画を知っていたのなら、これを嘘とは言わせない。