第25章 長引く姉妹喧嘩
「話したいことが沢山あるけど、急いでるんだ。すごくワガママだけど、ごめんね」
千春の手を握って、笑いかける。
「術式を返して。傑を殺すために必要なの」
『嫌』
「お願い」
『あいつは、私の家族だ』
「お願い。あの時みたいに喧嘩してる時間はないの!」
『…』
「ねぇ、千春!」
何も言ってくれない千春に腹が立つ。
千春と喧嘩してる時間はないし、説得する時間もない。
「もう、バカ!」
刀を拾って乙骨君の元へ駆け寄った。
しかし、乙骨君は傑から目を離そうとしない。
私に気づいているのかどうかも分からない。
「…お前はゾンビか」
「乙骨君!こっち見て!」
「私の目的を邪魔するな」
寄ってくる傑に適当に刀を投げつけ、乙骨君の手を握った。
リカが私の腹を握り潰そうとしてくるが、根気で耐える。
そこでやっと、乙骨君が私を見てくれた。
「聞いて。まずは3人を回収して治療」
「…ち、なつ、さん?」
「そう。分かったら行動して」
乙骨君は頷くと、リカちゃんに指示を出して3人を集めた。
そして、私達は誰かさんが率いる気味の悪い呪霊に追われながら、安全な場所を目指す。
「千夏さん!」
「いいから!乙骨君は上に行って!」
幸い、雑魚ばかり。
私が戦えないことを知って、乙骨君とリカちゃんを試そうとしているのがバレバレ。
質より量、等と考えているのだろう。
「あぁ、もう!千春!いい加減、術式返せ!」
『千夏に渡したらアイツが死ぬ』
「当たり前!」
呪具の扱いには慣れているが、これだけ量が多いと呪力を使う他ない。
けれど、術式が使えないため、単調かつ燃費が悪い。
「お願い、誰も死なせたくないの…!」
『その中にアイツはいないだろ』
「傑が大切なのは私も同じ!それでも、やらないといけないの!」
このままでは7年前と同じだ。
喧嘩で終わってしまう。
私だって傑を殺したくないのに、千春は…。
前に溜まる呪霊を一掃し、軸足を中心にして飛んだ反動で涙が零れた。
雫が宙を舞う様子を視界の端で確認した。
そこに影がかかる。
上から呪霊が落ちてきた。
「ち……」
終わる。
受け身をとる準備にかかろうとしたその時。
風が吹いた。