第25章 長引く姉妹喧嘩
これがアドレナリンの力だろうか。
今なら何でもできる気がする。
「きゃはは!千春、いいの?私、このままだと死んじゃうよ?」
血が足りない。
それでも、私は息を止めない。
けれど、もう天は近い。
「勝手に死ぬな。千夏を殺すのは私だ」
生温かい自分の血が、洋服に、肌に触れて、硬い地面に顔をつけた。
全てにモヤがかかって、とても冷たい。
誰かが近づいてきた。
「…なら…わた…こ…そう」
傑か。
傑は血で汚れた私の刀を手に取って、何か言った。
ああ、刺されるのだろうか。
それとも、首を切られるのだろうか。
「千夏。君との時間はとても楽しかったよ。今も、昔も」
耳元に息を感じたその刹那、鈍い音がした。
そして、懐かしい呪力を感じた。
『やややめろ、千夏に………触るなァァァァァァ』
それを最後に、私は数分間意識を失ってしまった。
気がつくと、そこは地獄絵図だった。
真希が相も変わらず瀕死の状態で、パンダと棘が瓦礫の上に転がっていた。
いつの間にか腹の刺し傷が塞がっていて、服に着いていた血は乾き始めていた。
切ったはずの足も元に戻っていた。
傑を見つけると、そこには乙骨君も居た。
耳の中に血が溜まってしまったのか、ゴワゴワした音がして声は聞き取れない。
頭を振って血を取り出すと、声が聞こえるようになった。
その声は乙骨君のものだったが、聞き覚えのない、荒れ、掠れ、怒り狂った声だった。
リカちゃんが顕現し、物凄い迫力を感じるべき状況だった。
けれど、私はもっと近くに、優しくて温かい、恐怖に満ちた気配を感じていた。
「千春…」
『…』
「助けてくれたんだね。ありがとう」
気まずそうに頭を下げる千春。
そっと頭を撫でた。