第25章 長引く姉妹喧嘩
それに、傑に気づかれた。
私の今の状況を。
「以前会った時にも気になったけど、今ので確信した。千夏、もう戦えないだろ」
「…はっ。何を」
「………なるほど?千春に術式を奪われたか」
どこまで鋭い男なのか。
話が進む前に、傑との間合いを詰めた。
「前は体術なんて心得てなかったよな。術式が無くなったから、こっちで攻めることにしたのか」
「ほんと、傑が敵であることに恐怖を感じるよ」
呪術師が術式を使わないで戦っている。
勝機は甘く見積って五分五分だ。
けれど、術式を使われたら、結果は片方が色濃く染まる。
「それなら、千夏を怖がる必要は無い」
「どうかな」
呪霊を取りだした傑を前に、私は腰についていた小刀を取りだした。
この小刀を使えば、人を無差別に傷つけられる。
幸い、ここには乙骨君と真希しか居ない。
乙骨君にはリカちゃんがいるし、真希の隣で術式を使えば2人は傷つかない。
「私は秘密主義なんだよね」
「何度それに惑わされたか」
「懐かしいね」
「ああ。本当に…反吐が出るよ」
小刀を使って頬を切ろうとした。
そうすれば、準備が整うというのに。
あと少しだったのに。
「おっと。誰かが帳に穴を開けたな」
気配が増えた。
それが悟ならば、私が術式を使っても問題は無いが、コレは圧倒的に劣る。
「何事もそう思い通りにはいかないね」
「…激しく同意」
傑に殺される覚悟を抱きながら、小刀を鞘に収めた。
「侵入地点からここまで5分ってとこか」
「微妙だね」
「無視するべきか、片付けておくべきか」
隙だらけに見えるが、今首をもぎり取ろうとしても、失敗に終わることは目に見えている。
「千夏との戦いを邪魔されたくないからね」
「本当に弱いものいじめが好きだね」
「はは。千春がいる限り、お前は死なないだろ」
傑は知っている。
私がどれだけ千春に依存していたかを。
「うーん…。迷うね」
傑がそう呟いた瞬間。
横に設置されていた柵を破り、パンダと棘が突っ込んできた。