第3章 共通認識
ガタンガタンガタンガタン
「関節じゃないキスしてみる?」
ガタンガタンガタンガタン
「え?」
声が震える。
ゆっくり振り返ると、目と鼻の先…。
そう表現するには遠いかもしれない。
鼻と口の先に五条の顔があった。
五条が温めた空気が私の口にあたっている。
注意を怠って口を動かしたら、すぐに触れ合ってしまう距離。
ガタンガタンガタンガタン
「していいよ」
五条はサングラスをつけていなかった。
綺麗な青色の瞳。
私が一目惚れしたウルトラびゅーてぃふるな目。
もっと距離を取っていれば、言い訳できた。
電車の音で聞こえなかったって言えた。
けど、私の耳に五条の甘い声は届いてしまった。
しっかり、届いていた。
その瞳も。
まつ毛も。
鼻も、口も、声も。
全部全部、私のものにしたい。
私のものって言い張りたい。
けど。
最善の注意を払って、震える唇を中に引っ込めた。
それが合図だったように、私たちの体は離れていった。
そして、何も無かったように肩を並べて川を見続けた。
この時の空には大きな積乱雲が出来ていた。
夕日でオレンジ色に色付いた、幻想的な雲が。
まるで、今起きたことが夢であることを暗喩しているように。
いつの間にか、五条はサングラスをつけ直していた。
もう、チャンスが訪れないことを示していた。
分かってる。
分かってるよ。
これは自分で選んだ道だ。
けど。