第24章 熱血サンタクロース
「それでも、誰かが傑を殺さないといけない。なら、僕がやる。僕以外に殺させはしない」
「親友だから?」
「そう」
箸をおいて、小さく頷いた。
悟がそう言うなら、私は出しゃばらない。
大人しく悟の希望を叶えるために尽力する。
「千夏は僕の…人生で唯一の恋人だよ」
分かってる。
「殺されるなよ」
悟にはすべてお見通しだ。
私が私を欺いても、悟は真実を見つめる。
「これ、渡しておくね」
悟がテーブルに置いたのは、懐かしくて脆い飴の缶。
「じゃあ、私も渡しておく」
ポケットに入れていた1本のシロツメクサ。
春に採取して、特別な方法で保存していたのだ。
「私たち、何も成長してないね」
「そうだな」
「今日なら、変われるかな」
「さぁ」
「どこにもいかないでね」
「いかないよ。千夏も…」
続く言葉はなく、含み笑いの乾いた音が、私の耳に届く。
「なんて言っても、お前はすぐにどっか行くからな~…」
軽く笑って、飴を一つ食べた。
変わらない味に目頭が熱くなった。
「だから…私は変わりたくないんだって」
肘をついて、斜め前を見た。
床に置かれた呪具が、滲んでいく。
「ま。安心してよ」
ポンっと頭を1撫でされた。
「僕も何も変わってないから。千夏がどこに行っても見つけるから。誰を傷つけても、隠し事をしても、それは誰かを守るためだって知ってるから。”千夏は何も変わってないって、信じてるから”」
ほろっと涙がこぼれた。
だから、無理して笑った。
「そろそろ片づけて、準備しないと」
「ストレッチする?」
「1人でね。悟とやると、変なところ触ってくるから」
「触りたくなるんだもん」
「開き直っても、一緒にはやらなーい」
長きにわたって練ったプランが崩れる音がした。
もう戻れない、戻らない。
でも、これでいい。
悟がいるから。
私は一人ではないから。
存分に理想を求めよう。
何も犠牲にせず、すべてを手に入れよう。
それを許してくれる人がいるから。
そんな私を好きでいてくれる人がいるから。